概要

信仰を失ってしまったわたしたち―
今こそ問う、仏教とは?信仰とは?

10年前、本山での修行期間を終えた兄弟子の隆行(リュウギョウ)と弟弟子の智賢(チケン)は、自らの生まれた寺へとそれぞれ戻っていった。

富士山の裾野に広がる山梨県都留市、耕雲院。智賢は、住職である父と、母、妻、そして重度の食物アレルギーを抱える3歳の息子と共に暮らしている。全国曹洞宗青年会副会長としての顔も持ち、いのちの電話相談、精進料理教室やヨガ坐禅など、意欲的な活動を続けている。

一方の兄弟子・隆行は福島県沿岸部にあったかつてのお寺も、家族も檀家も、すべてを津波によって流されてしまった。今では瓦礫撤去の作業員として、ひとり仮設住宅に住まいながら本堂再建を諦めきれずにいた―。

仏僧も、それぞれみなひとりの人間。仏教は果たして必要とされているのか? 今こそ本当に信仰が求められる時代なのではないか。苦悩しながらも仏道に生きる若き僧侶の姿、そして高僧・青山俊董のことばを通じて、映画は驚くべき境地に観客を誘うことになる。

『サウダーヂ』『バンコクナイツ』に続く富田克也最新作は、
仏教とそれを取り巻く3.11以後の日本のすがた

演じているのは、全国曹洞宗青年会の実際の僧侶たち。映画製作にあたり、彼らが“今、一番話を聞いてみたい曹洞宗の高僧”青山俊董老師の元へ、実際に智賢が訪ね交わされた対話を軸に、福島、山梨、長野、そして中国の自然の中で繰り広げられる、現代日本の僧侶たちの日常が、フィクションとドキュメンタリーの枠を超え、円環しはじめる。

監督は常に規格外の作品で国内外に話題を振りまく空族・富田克也。『サウダーヂ』(11)で疲弊する地域社会を描き、『バンコクナイツ』(16)では現代日本をアジアから照射したが、今回は仏教とそれを取り巻く3.11以降の日本社会の姿を真っ向から捉えた。第72回カンヌ国際映画祭の批評家週間「特別招待部門」に選出され、海外からの驚嘆の眼差しで迎えられた本作が、いよいよ日本公開となる。