『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?
第11回 山口県周防大島町・久屋寺
昔から伝承された地域の行事には、その地の寺院が関わっていることが多くあります。今回、一度は休止を余儀なくされながらも、伝統芸能を地元の方と共に復活させ、大切に伝えている、山口県周防大島町の久屋寺さまを取材させていただきました。
<プロフィール>
久屋寺 住職 清木隆法師
昭和52年生まれ。46才。愛知学院大学卒業後、大本山永平寺で安居する。平成16年久屋寺住職となり、令和3年からは法心寺、眷龍寺の住職も兼ねる。平成25年からは4年間、山口県曹洞宗青年会の会長も務めた。寺院活動に留まらず、ソフトボール少年団の父母会長を務めるなど、地域の様々な場面で活躍している。
―どのような行事でしょうか。
清木師 「なむでん踊り」という、田植えが終わった頃、五穀豊穣を願い害虫を防ぐために、掛け声をかけ鐘や太鼓を鳴らしながら踊る虫送りの行事です。ここ久屋寺で入魂式を行い、町内各地を巡回し踊りを奉納します。約250年前に神屋寺(現 久屋寺)7世大本祐厚大和尚が踊りを考案し、昭和51年には県の無形民俗文化財に指定されました。昔は大人が踊っていましたが、大島大橋開通式典(昭和51年)に出演するときに、大人に合わせ新しく子どもの部が結成され、それ以降は子どもの部が伝承してきました。しかし、踊り手の少子化と指導者の高齢化のため、平成18年を最後に、町内を巡回する奉納踊りは休止となりましたが、平成27年に復活することができました。コロナ禍では害虫退散だけではなく、新型コロナウイルス退散を祈り奉納しました。
―どのように関わっておられますか。
清木師 久屋寺の住職は保存会の副会長を務めており、保存会では奉納踊りの日程や保存していくための課題などを協議します。私も子どもの頃に踊っていたので、今は踊りの指導もさせていただいております。歴代の住職で踊った経験があるのは、おそらく私だけで、踊りの指導をしたのも祐厚大和尚と私ぐらいだと思います。そういう意味でもありがたいご縁をいただいております。
奉納踊りが休止していたときは、中学校の「地域の伝統芸能を学ぶ」という総合学習で子どもたちに指導しておりました。単に踊りの振り付けだけを教えるのではなく、踊りの由来や歴史的背景も伝えました。文化祭で発表したいということで、指導させていただいたこともあります。
―「なむでん踊り」が、復活したときのことを教えてください。
清木師 保存会会長の呼びかけに、子どもの頃に踊った青年たちが「自分も踊った伝承が絶えてしまうのは忍びないので後世に繋ぐためにぜひやろう」と復活しました。子どもの頃に踊った青年たちは、20年ぐらい経っても踊りを体が覚えていましたが、振り付けの細かい部分で悩んだりしました。幸いだったのが、それまで指導されていた方から、ご助言をいただけたことです。もし、復活させようとする機運が遅ければ、結成当時の踊りを伝承できなかったかもしれません。また、地域おこし協力隊の方や、伝統芸能に興味がある方、学校の先生など、多くの方が力をお貸しくださいました。その結果、一地域の踊りを復活させようという力によって、人と人との縁も広がっていきました。そして、復活を機に青年たちの子ども、その子の友だちも踊りに参加してくれて、今では大人の部・子どもの部ではなく、大人と子どもが一緒になって踊っています。
私も復活時の練習に参加しました。久しぶりに踊ってみると、子どもの頃に踊ったときよりも楽しく感じ「一緒に踊りましょうか」と提案したら「流石に、入魂式を務める住職が踊ったらダメでしょう」となり、「しかしか」という口上で踊りの由来や願いごとを述べる役で参加させていただきました。
―子どもたちへはどのように教えていますか。
清木師 奉納踊りが近づくと、子どもたちの練習日を平日に週2回設けますが、習いごとがある日に重ならないようにするなど工夫しています。無理をさせず、子どもたちに合わせ、楽しく踊ってもらえることを意識しています。3番まである難しい踊りなので、低学年の子どもたちには分かりやすい1番の踊りだけを踊ってもらう、初めての子は旗を持ってもらうなど、可能なことからしてもらいます。そうすると、子どもたちの方から「来年は全部踊ってみたい」「もっと違う役をしてみたい」など積極的になってくれます。あとは、上手くできたときはしっかり褒めること、感動したら積極的に伝えることを重視しています。私も安居から帰ってきたばかりのときに「若いのに頭を剃って立派だ、尊敬する」と褒めていただいたときは、ひどく心を動かされました。同様に、子どもたちに「最高」と声をかけると、こちらの期待以上の力で応えてくれます。子どもたちのパワーは本当にすごいですね。子どもたちが楽しく元気に踊ると、こちらも元気になる。だから「君たちの踊りは、人に元気を与えている」と大切に語りかけています。そのことを今年の本番で見事にやってくれました。照れくささなどなく、大人の掛け声の方が負けてしまうと思うほどでした。
―そのほかのお寺の行事を教えてください。
清木師 参禅会を行っています。1月の最後の日曜日から、12月の最初の日曜日まで、毎週日曜日の6時から、坐禅と法話で約1時間。東堂の代に始めて今年で54年目になります。若い頃は毎週の開催は大変だから、月1もしくは隔週にしようかと考えたこともありましたが、変更しなくて良かったと今では思います。開催する頻度が減ると、そのときに都合がつかない方は、当分間が空いてしまいます。踊りの指導と一緒で、相手に合わせてもらうのではなく、こちらが合わせる。相手が合わせやすいように、その機会を増やしています。それが大切だと20年間続けて分かりました。今は、私が不在のときは東堂に代務をお願いしますが、私と東堂が不在のときでも参禅会は開催できるでしょうね。長い人は東堂の代から40年以上続けてこられています。
また、今の子どもたちは日曜日も忙しいので、参加しやすいように、年に数回ほど親子坐禅会を開催したいと考えております。お寺でスポーツ少年団の合宿を引き受けたことがあったのですが、食事のときに、「皆で話しながら楽しく食べるのも美味しいけれど、黙って食材と向き合って食べるのも美味しいよ」と子どもたちに教えると、「すごく美味しかった」と言ってくれました。「ごちそうさま」や「いただきます」の説明には、保護者の方からも「参加してとても良かったです」と言っていただきました。お寺は、日常分かれて巡回できましたが、踊り手・お手伝いの方も少なくなり、巡回する地区も減ってしまいました。「近くだと観に行けるけど、遠くなると難しい」そういった高齢者の方もいらっしゃるので、それも原因の1つと思います。踊り手・指導者・お手伝いの方の減少。そして観に来てくださる方の減少。これは、お寺が抱えている問題点と重なっていると思います。
お寺に伝わっている昔からの法要などの行事も参詣者が減少しています。お参りいただくために、先ずはお寺をもっと身近に感じていただきたい。今の私にできることは、お寺に来ていただく機会を増やすこと、そして何よりも関わってくださる方を増やせるように努めること。そう考え、2ヵ月に1回は行事を企画しております。(法要は1月と7月、写経会は3月と9月、法話会は5月と11月)
また、最近兼務住職となったお寺ででは味わえないことを体験できる、特別な場所だと改めて感じました。
―今後の課題について教えてください。
清木師 「なむでん踊り」を踊ってくれる子どもたちを増やすことも重要ですが、踊りを観に来てくださる方が徐々に減ってきているように感じます。昔は子どもが多く、2グループには、法要前のお掃除などを檀信徒の方が積極的に協力してくださいます。先代ご住職が、一人ですべてやるのではなく、任せられることは任せてお願いしてこられた結果だと感じています。人にお願いできるという繋がりや、地域との関わりを構築し続けることが、伝承の基礎になるのだと思います。
(聞き手・文構成/全国曹洞宗青年会 副会長 宮本昌孝)
引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和6年1月号掲載
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※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。
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