『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?
第6回 石川県金沢市・廣誓寺
近年、お寺を会場としての音楽コンサートやヨガ教室、喫茶店など様々な催しが行われております。お寺が地域の特色を理解し共存を図ることで、お寺の活性化が地域の活性化にも繋がっていきます。今回、全国曹洞宗青年会(以下、全曹青)では、美術・工芸の文化が盛んな金沢の地で、これらの分野に特化した「寺活」に取り組まれている廣誓寺さまを取材させていただきました。
<プロフィール>
廣誓寺住職 巽亮光師
1974年生まれ。48歳。地元の高校を卒業後、北海道、沖縄、インド、タイなど四年間旅に出る。愛媛県瑞応寺、熊本県聖護寺、兵庫県安泰寺、福井県妙徳寺で安居の後、アメリカ各地の禅センターで参禅修行。計6年間の修行を終え廣誓寺に帰山。平成16年より住職となり、現在「オテラート金澤」や坐禅会、仏教の勉強会、落語会、音楽会などを主催している。曹洞宗石川県青年会前会長。
─どういった活動に取り組まれているのですか?
巽亮光師 「オテラート金澤」という活動をしています。「オテラート」とは「お寺」と「アート」を掛け合わせた造語です。これは金沢市内四地区・超宗派12ヵ寺のお寺を会場として開催している芸術祭です。年に1回秋期に約20日間開催しており、コロナ禍で休止していた期間もありますが、来年度開催をもって第13回目を迎えます。
出展作家はインターネット媒体(ホームページやSNS等)やポスター、また美術・デザイン専攻の大学などで募集をしています。一会場で6人から10人ほどの作家や学生の方が、絵画や彫刻、現代アートなど幅広いジャンルの作品を展示します。他にもワークショップや喫茶店などの出店、音楽会など50組以上の出展者が集まり開催しています。一部のワークショップや音楽会などは予約や参加費が必要となるものもありますが、基本的には予約も入場料も不要です。
各会場の受付には作家の方やそのお寺の住職が交代制で常駐しています。タイミングが合えば展示されている作品の説明やお寺の歴史を聞くこともできます。昨年の開催期間中の来場者数は全11ヵ寺で約5000人以上になります。
─お寺で芸術祭を始めようとしたきっかけは何だったのでしょうか?
巽亮光師 そもそもは、自坊も含め近隣3ヵ寺が、ちょうど住職の代替わりのタイミングとなったことがきっかけでした。親睦を深めるために3人で行った食事の席で「地域のお寺として何かできることはないだろうか」という話題になり、「金沢は美術や工芸が盛んだから、お寺を会場にして展示会をしてみてはどうか」という案が出てきました。私たちは意気投合し、3ヵ寺で美術・工芸の展示会を開催しました。これが「オテラート金澤」の始まりとなります。
なので、当初からお寺で芸術祭をしようと思っていたのではなく、地域の活動として我々に何ができるのかを考えた結果、開催に辿り着きました。お寺や地域文化をもっと身近に再認識していただく機会として、また同時に美術や工芸を発展させる機会となればと思い、毎年継続的に開催をしています。
─10年以上も続けておられるのですね。これだけ長く続けられているというのは、やはり反響も大きなものだったということでしょうか?
巽亮光師 第一回「オテラート金澤」の際は、私の知人である金沢美術工芸大学の先生と学生に、お寺での展示会に興味がないかと打診したところ、15人の学生が参加してくださいました。今までに個展というのはお寺でも開催したことはありましたが、3ヵ寺で協力し各寺院に5人の作品を展示するということは初の試みでした。会場主として準備や運営を暗中模索しながら務めましたが、想像以上に地域の方や大学の先生方からの反響が大きかったです。地域の方からは「是非毎年続けてほしい」とお声をいただき、非常に喜んでいただけました。そして、参加していただいた学生たちも一生懸命に作品制作・展示に力を入れて活動されていました。
私は学生たちの懸命に取り組む姿を見て「お寺を作品展示の場として提供することで、学生や若手作家を応援することができるのだなあ」と実感しました。また、回を重ねていくと、保育園や小中高の生徒が授業の一環として見学に訪れるようになり、「オテラート金澤」が地域の学びの場として役割を担っているようにも感じています。
─開催する上で苦労されたことはありますか? また、工夫していることがあればお聞かせください。
巽亮光師 第一回では会場主の私たち三人だけで運営していたので苦労しましたが、第二回では大学の先生や学生、作家など、様々な方に準備やサポートをしていただきました。このいただいたご縁を大切に繋ぎ、現在は毎年実行委員会を立ち上げています。学生や作家、教育関係者や各会場主の住職など、立場も年齢も違う約15人から20人程で構成されており、毎月一回以上の会議を重ねています。それぞれの立場の視点から意見を出し合うことで、開催の意義がより具体的に、そしてその積極性が地域の活性化にも繋がっていくと考えています。会議のたびに良いアイデアが次々と出てくるので、それをいかに実現していくかということは毎回苦労しており、現在の課題でもあります。そして、この実行委員会ではヒエラルキーが生まれないように、実行委員長は一年交代制にしています。立場や年齢などは置いておき、良い芸術祭になるように皆がそこに焦点を当てているのです。
これによって、皆で補い支え合って、各々ができる準備を一生懸命するということが実行委員会でできています。現在でも「オテラート金澤」に会場として参加希望されるお寺があるのですが、コロナの影響もあり、学生や作家の人数が足りていないのが現状です。現在の出展作家の参加人数が60人から80人、100人と増えていけば会場寺院を増やして規模を拡大していくことも検討しています。
─これから寺活に取り組もうとしている僧侶に向けてアドバイスをいただけますか?
巽亮光師 私が心掛けているのは、まず自分自身が喜んでできることをするということです。決して、嫌々取り組んだり、義務感が強くなったりしてはいけません。喜びの心をもって取り組める内容で、なおかつ相手が喜んでくれるように思い巡らし、真摯に取り組んでいけることを願っています。さらに、その取り組みに賛同し協力していただけることがあるなら本当に嬉しいことと思っています。その様な一つ一つのご縁を大切にしたいですね。私たちお寺がしっかりと「サンガ」になって皆が支え合う関係を築いていく。それがお寺の活動において一番大切なことなのではないでしょうか。
(聞き手・文構成/全曹青事務局次長 勝田淳玄)
引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和5年3月号掲載
全国曹洞宗青年会「テラカツ!〜寺院活性化事例紹介〜」
※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。
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