WEB版『テラカツ!』寺院活性化事例紹介(第2回)

2024.02.21

『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?

第2回 秋田県男鹿町・雲昌寺

 「花は人を呼ぶ」この言葉を誰しも耳にしたことがあるのではないでしょうか。花は人をひきつける不思議な魅力があります。
この連載では、過疎化の中、お寺を活性化させる活動としての「寺活」に積極的に取り組んでいる寺院を全国曹洞宗青年会が紹介してまいります。

<プロフィール>
雲昌寺副住職 古仲宗雲師  
1970生まれ。52歳。駒澤大学仏教学部卒業後、大本山永平寺で修行。25歳で雲昌寺へ帰山。檀務の傍ら、境内のあじさい植栽を始める。また熱心にグリーフケア活動に取り組み、「秋田グリーフケア研究会」の代表を長く務める。第44回正力松太郎賞 奨励賞受賞。

―今ではあじさい寺と呼ばれるほど全国的に有名ですが、なぜ、あじさいを植え始めたのでしょうか。

古仲師 当時境内には私の好きな青色のあじさいが一株あり、そのあじさいを切り花にして飾ったところ、その美しさに心を奪われ、このあじさいを増やしたら檀家さんや近隣の方に喜んでもらえるかなと思ったのが植え始めたきっかけです。一株から挿し木を続け、20年近く経ちました。結果として、青一色の統一感のある境内になりました。今では2,000株程あるのではないでしょうか。

―雲昌寺がある男鹿市北浦地区の過疎の現状についてお話しいただけますか

古仲師 昔は地域に多くの小学校がありましたが、今は児童の減少で学校が統合し、1校しかありません。私が知る限り児童が400人以上の頃もあったので、今年の小学校入学者がいないというのは衝撃的でした。雲昌寺とこの地域を気に入り、移住した方がいるというお話はお聞きしましたが、根本的に厳しい現状だといえます。

―6月から7月のあじさいの見ごろの季節にはたくさんの方が足を運んでいます。始めた当初は試行錯誤もおありだったと思いますが、苦労した点、良かった点はありますか。

古仲師 まだ落ち着く前は、多くの来山者の対応や、ひっきりなしに鳴り続ける電話で本当に大変でした。また、駐車場の不足や、路上駐車の問題で迷惑はかけられないと思ったのですが、まちづくり協議会会長や市役所に相談したところ、人が来るということは町おこしに繋がるということで、何ができるのか一緒に考えていただきました。今では「チーム雲昌寺」として檀家さんや地域の方々との一致団結で運営しています。
あじさいの季節を通して52,000人、大体一日1,000人があじさいを見に来るので、地域の方のご協力がなければ非常に厳しいです。最高齢で90歳以上の方もおり「無理しないでください」とお話ししても、本人からは「是非続けさせてほしい」と言われます。それが生きがいになっていたり、お寺を誇ってもらえることは本当に喜ばしいことです。

―たくさんの方が見に来てくれたことで具体的にどういった影響がありましたか。

古仲師 昨年、一昨年はコロナ禍で他の行事が中止になったこともあり、秋田県で一番人が集まる行事だったようです。桜、紅葉の見ごろは1週間で終わりますが、あじさいは1ヵ月以上なので長い期間楽しんでいただけます。その分、地域への経済効果も大いにあるとお聞きしています。市内のみならず、特に飲食店に広い範囲で影響があるようです。
ある方に「雲昌寺に多くの人が来てくれるようになって賑やかになった。お陰さまで店を潰さずにすみました」と言われたときは、改めて地域おこしに繋がっていると実感しました。

―境内を歩かせていただき、あじさいだけではなく様々な心遣いや、遊び心が感じられました。見どころがあったら教えてください。

古仲師 昼間に見るあじさいもとても綺麗ですが、私は夜にライトアップされた雲昌寺のあじさいは日本一だと思っています。ライトアップは、ただ明るくするのではなく、光に強弱をつけ、よりあじさいが引き立つように工夫しました。皆さんに是非お勧めしたいところです。
また、あじさいに囲まれた大きなお地蔵さん、小さな可愛らしいお地蔵さんも隠れています。静かな竹林の中の椅子やカフェブースがあり、ゆっくりお休みいただける場所も用意しております。それと、石畳にハートの石を7ヵ所散りばめており、小さなお子さんも楽しく探し回ってくれているようです。
御朱印やお守りも、青いアジサイをモチーフにしたデザインを施させていただいています。

―「SNS映え」が非常に流行しており、あじさいと非常に相性がいいように感じます。お寺からも様々な媒体で発信をしていると思いますが、メディアや、SNSの影響はどう感じますか。

古仲師 非常に影響は大きいと思います。「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景 日本の絶景編2017」で1位に選出していただいたのが大きなきっかけで、そこからテレビ番組の「報道ステーション」で特集を組んでいただきました。JRでも大々的に東北の観光スポット「あじさい寺」として宣伝してくださるようになりました。完成度の高いポスターなのですが、地元の方は電車をあまり使わないので、都会の方がよく目にするようですね。
それと、SNSで素敵な写真を載せている方にはこちらからも積極的にアプローチをさせていただきました。インフルエンサーと呼ばれている方のSNS発信は影響を強く感じました。

―地域の方々と繋がりながらお寺を守っていく中で、今後の寺院運営についてどうお考えでしょうか。

古仲師 お寺の存続に対する危機感、不安は常にありました。今後現実問題として、どんどん拍車がかかっていくのではないでしょうか。実際寺院行事には高齢化で人が中々集まりません。本当に厳しい状況だと言えます。
また、子どもがいないこと。この状況がある以上簡単に食い止められるものではないと思います。ただ、過疎であっても、今この地域に人は住んでいます。そこに住む人間として協力し、支え合い、前を向いていくための努力は必要なのではないでしょうか。その場所がお寺であれば大きな意味があると思います。
また、お寺を守り続けることは、現実問題として収入がなければ非常に厳しいです。雲昌寺は、過疎の中でもあじさい寺を地域と共に盛り上げる。そこからの収益をお寺と、地域の皆さんに循環させることで、お寺と地域を守り、活性化させることに繋がると思っています。

―これから寺活を考えている方に向けて、アドバイスはありますか。

古仲師 寺離れ、過疎がもの凄いスピードで進んでいます。始めるのであれば早く始めた方がいいでしょうね。また、お寺という強みは最大限に活かすべきです。有難いことに、お寺でイベントを企画すればそれだけで注目していただけます。他のお寺がやっていないような差別化できるアイデア、むしろお寺と馴染みが薄いと考えられるような企画は今の時代は目を引いていいのかもしれないです。お寺の環境を利用したワーケーションなどもよいかもしれませんね。
「田舎だからできない」「小さいお寺だからできない」のではなく、地域の特色や、お寺の特色を活かす。覚悟があれば、何でもできるのではないでしょうか。そして、「人を喜ばせたい」という強い気持ちは大切にすべきだと思います。

 (聞き手・文構成/全国曹洞宗青年会 庶務 高田大航)

引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和4年7月号掲載

※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。

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