『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?
第8回 東京都小金井市・長昌寺
テラカツを行う際、多くの場合、「寺族」が一番身近な存在なのではないでしょうか。長昌寺さまでは住職・寺族間でのやりとりを大切にしながら、それぞれの視野を活かして多くの行事が開かれています。今回は、地域のお寺として多くの方が集う、その基となっているものをうかがいました。
<プロフィール>
長昌寺住職 高橋尚也師
駒澤大学卒業後、大本山總持寺安居。平成19年住職となる。
<プロフィール>
高橋麻悠氏
愛媛県新居浜市出身。平成27年に結婚し長昌寺で働き始める。
―長昌寺さまでは様々な行事が行われています。そのお話をお聞かせください。
高橋尚也師 父である先代が亡くなり、24歳で住職となりました。年配の檀信徒さん方から、先々代である祖父の時代に、坐禅会・お経の会・本山参拝旅行など活発な活動があったことをお聞きしていたので、もう一度お寺が「繋がり合える場所」になればいいなと考えていました。ただ一人では実行に移せずにいた頃、結婚して妻が背中を押してくれました。
高橋麻悠氏 結婚して間もなく、檀家さんと大本山永平寺に参拝しました。2泊3日で親交を深めた方々が次に集まれる機会がないため、企画したのが最初の坐禅会でした。そこで手応えを感じ、平成28年1月より「おてらじかん」を開始しました。
最初は、坐禅、写経、外部講師を招いてのヨガから始め、その後、お地蔵さまの前掛けを縫う会、蓮の植え付けを行う会など他にも様々な会が増えていきました。
―「おてらじかん」を開催する上で気を付けていることはありますか?
尚也師 坐禅会は、初めての方も多くいらっしゃるため、毎回坐り方から説明します。また、初回参加の方にはアンケートをお願いしており、参加しようと思った理由や感想をうかがうようにしています。また、「坐禅やヨガなど、興味のあることに参加していただくことによって少しでもお寺を知る、ご自身のご先祖さまや仏教行事に気持ちを向けるきっかけになれば」というこちらの想いは毎回お伝えするようにしています。
麻悠氏 私は裏方として、いかにスムーズに会が進むかを重視しています。開始当初は数名から始まった坐禅会ですが、平成30年頃には月に1回ですが60名ほど参加される会になってきました。受付は私が一人で行っているので、受付の際のご案内の時間帯、机や椅子の配置、どこにどんな看板を立てて、どんな用紙を作っておけば、私一人でも慌てずに受付ができるかを考えていました。落ち着きや安らぎを求めてお寺に来られるので、バタバタしているように見られないように準備をして臨んでいます。
それと、開催するにあたり気を付けていることとは少し話題がそれますが、「仏事以外でお寺に来られる機会を……」と思って始めた「おてらじかん」ですが、始めてみると参加者のほとんどが檀家の方ではなかったので、そちらばかりが盛り上がって檀家の方が置き去りにされているという印象をなるべく受けないように、ゴミ置き場や水屋周辺を整える、寺報の発行を開始しお寺の内部や活動内容を知ってもらえるように努めました。
―そういう盛り上がりの中でコロナ禍となりました。
尚也師 長昌寺でも行事を中止せざるをえなくなりました。4年間かけてやっと形になってきた諸会でしたので、これまでやってきたことがゼロになってしまうのではないかと思っていましたが、暑中見舞いや年賀状を出したり、コロナ禍の中でもSNS等を発信したりしていたこともあってか、令和4年5月の再開と同時にまた沢山のご予約をいただくことができました。
なかなか外出がままならなかった生活の中、お寺を選んで来てくださる方が沢山いらっしゃることに有難さを感じながら、私の中でも変化が生まれてきました。当初思い描いていたのは「(参加者が仲良く)繋がりあえる場所」でしたが、職場や家庭という環境から一旦離れるためにお寺に来ている方が多くいらっしゃることに気づかされたからです。
悩みを直接打ち明けてくださる方はごく稀ですが、アンケートには様々な参加理由が書かれています。東京という土地柄もあるかも知れませんが、やはりストレスを抱えて来られている方が多く、全員に対して寄り添うということは難しいですが、それぞれにとって少しでもいい時間になればと思って今はやっています。
坐禅は家で一人でもできますが、それぞれの想いを抱えた人が1つの場所に集まって、一緒に坐っているだけでこの場所が成立しているのを強く感じます。それもある種の「繋がり」なのではないかと思うようになりました。
麻悠氏 活動を続けていく中で、「昔は寺子屋でしたものね」という声をかけられることもよくありますが、現代では、塾や、習い事の教室や、昔のお寺がやっていたことを専門的に行っている場所は沢山あるので、そういう場所に戻したいわけではなく、現代のお寺に何が求められているのかを考えるようにしています。情報が溢れすぎている現代なので、「何もない」のが本当の価値だったりすると思います。ただお寺で育った住職にはそれが当たり前だから気づきにくいのかもしれませんね。
再開して以降は、月に1回60名で行っていた坐禅を、月3回定員24名に変更し、予約方法もウェブフォームからLINEに切り替えました。これは、参加する方が予約を取りやすくするためというよりは、月3回に増やしたことで不定期になってしまった開催日程やお寺内で体調不良のスタッフが出た際の中止のご連絡をしやすくするためです。その時々に出てきた問題点に合わせて予約の方法を変えてみるのも、自分の仕事量を減らす上で重要かと思います。
―夫婦間でのやりとりはありますか?
麻悠氏 それは多いですね。結婚した当初は、お寺でやれることに対してのアイデアが溢れすぎて、住職に四六時中話を持ち掛けていたら、「17時以降仕事の話禁止!」と言われました(笑)
会がある程度形になってきた今でも、よりよい会にするため色々話し合います。そもそも、会を開くにあたり、人を多く集めなければいけないのか?という部分はあるかと思います。人数が少ない方が来ていただいた方の満足度は上がるかも知れないですし。
でも、きっと私たちにもどこかで承認欲求はあって、一人も来ないかもしれない状況よりは、いつも沢山ご参加いただけて会が求められていると実感できる方が、モチベーションになります。私たちの気持ちを切らさないためにも、振り返りや改善を随時行ってます。
―「おてらじかん」に人が集まるのはなぜだと思いますか?
麻悠氏 近しい友人が、「長昌寺の場合、お寺内部の人がその会をいい時間だと思っていることが伝わる」と言っていました。確かに、蓮を植え付ける会にしてもお地蔵さまの前掛けを縫う会にしても、私が楽しんでやっていたところから始まり、皆でやったほうが楽しそうだから呼びかけてみよう!と発展しています。自分が植え付けた蓮のことは気になるので、その後お参りに来られる方も多いです。坐禅・写経・ヨガとは違い、こちらの会は知らない方同士が協力して土を運ぶ時間などもあえて作っています。
発信の内容でいうと、開催日に向けて告知をして、当日いい時間を過ごしたら、SNSなどで報告をする、お手伝いの会に参加してくださった方にはお礼を伝える、のくり返しです。
尚也師 長昌寺の魅力をアンケートで聞いたとき、多くの方が「二人の親しみやすさ」と答えてくださいました。一般の方が想像しているような立派なお坊さん像とは異なるかもしれませんが、これも自分たちの強みだと思って活動しています。
―テラカツを行ったことで起こった変化や感じたことはありますか?
尚也師 檀家さんでもなく、「おてらじかん」にも参加したことのない方からの法事や葬儀の申し込みが増えたことです。ウェブサイトを見たときに、「おてらじかん」の活動が更新されていて風通しのいいお寺だと感じてくださったようです。
麻悠氏 令和元年に1鉢から始めた蓮が、今年は皆さんにお手伝いいただき143鉢になったのですが、蓮が咲くのはちょうどお盆の頃です。成長を「楽しみ」に植え付けてくださった方の気持ちが、大切な方を亡くされてお寺に来られた方の心を「癒して」くれるという循環もお寺ならではだと思います。
―これからテラカツを行っていく方へ
麻悠氏 坐禅はお釈迦さまの時代からあるのに、現代人にもこれほど求められている、単純にものすごいことだと思います。(もし他宗のお寺に嫁いでいたとして、お寺に人を集めるには…と考えた場合、「曹洞宗には坐禅があっていいなぁ」と感じたのではないかと思います。)
お寺の空気感を大切にしながら、坐禅やお寺で行っている様々な活動に興味を持ってくださった方が一歩を踏み出しやすい入口、環境を作っていけたらと思っています。
尚也師 まだ活動を初めて10年も経っておらず、近隣には毎朝坐禅会をされているお寺もありますので、このようなことを言うこともおこがましいのですが、お寺の本堂に入ってもらうだけで感動される。それは活動前、考えてもいなかったことでした。少しひらいてみる、そして来てくださった方、一人一人と向き合うことが大切なのではないかと思っています。
(聞き手・文構成/全国曹洞宗青年会副会長 山崎秀典)
【長昌寺おてらじかん】
坐禅の会(月3回)
写経写仏の会(偶数月)
ヨガの会(毎月1回)
境内をお掃除する会(年2回)
お地蔵さまの前掛けを縫う会(年2~3回)
金曜健康サロン(毎週金曜日/コロナ以後休止中)
蓮の植え付けをする会(年1回)
ボタニーペインティングの会(奇数月)
精進料理の会
引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和5年7月号掲載
全国曹洞宗青年会「テラカツ!〜寺院活性化事例紹介〜」
※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。
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