WEB版『テラカツ!』寺院活性化事例紹介(第5回)

2024.05.15

『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?

第5回 山梨県北杜市白州町・自元寺

 お寺にとって地域の未来を考えることは今後の大きな課題だと言えます。今回、全国曹洞宗青年会では、地域に密着し繋がりを重んじながら活動している山梨県北杜市の自元寺さまを取材いたしました。お寺に合った本当に必要な「寺活」とは何か。人と人との輪を大切にしながら取り組んでいる活動をご紹介いたします。

<プロフィール>
自元寺住職 山崎秀典師
1984生まれ。38歳。中央大学文学部卒。大本山永平寺安居後、自元寺へ帰山し、まもなく住職の任に就く。趣味は温泉とスポーツ観戦。東京ヤクルトスワローズファン。前全曹青関東管区理事。

―多角的に様々な寺活をされていますが、定期的に実施している寺活についてお話しいただけますか。

山崎秀典師 坐禅会は月2回開催し、毎回5人程ご参加くださいます。坐禅と朝のお勤めにご参加いただき、玄米のお粥をお出ししています。皆さまのご参加は心強く、また身が引き締まります。朝の一連の流れは、何があっても変わらない大切なものです。その安心感や、独特な空気を共に感じることはとても意義のあることだと思っています。
 また、古式ヨーガ教室も定期的にしております。坐禅会参加者にヨーガ経験者がおられ、他の参加者から「ヨーガを教えてほしい」という話が上がりました。経験者の方は1年以上かけてヨーガを学び直して資格を取得し、古式ヨーガ講師として指導してくれています。
 それと、コロナ禍で中止されていた茶道教室も、坐禅会参加者からの声で、他寺院の寺族さまにお願いしてスタートしました。今は対策をしながら開講されています。坐禅会を軸とした参加者の交流を通して円滑に行事が広がっていくことは素晴らしいと思いますし、私自身もいい意味で力を抜き行事に臨んでおります。

―「みんなのテラコヤ」という地域コミュニティとしての居場所を提供されていますが、詳しくお聞かせください。

山崎師 お寺は建物であると同時に地域共同体の1つです。田舎であればあるほどその意味合いが強いのではないでしょうか。北杜市は移住者が多い地域なので、コミュニティを求めている方は少なくありません。
 「みんなのテラコヤ」は、子どもにはフリースクール、大人にはコワーキングスペースとして提供し、交流の場であり開かれた居場所となるよう留意しています。技術を発信し、参加者が学べる場としても機能させたいと考え、過去には精進料理の会や、子ども向けお金学習、プログラミング塾等、様々な内容の催しをいたしました。
 最近では週に一度「森の活動」を行っています。お寺の裏山で自然の素晴らしさを伝えながら、子どもたちが集まれるような災害に負けない山造りをしています。

―地域に対しての想いも寺活に繋がっているのでしょうか。

山崎師 私は白州町で生まれ育ちました。地域の皆さまに見守られ育てられた意識があります。また「白州2050+ちょい呑み」「お寺×ごはん×地域活性化~北杜市の野菜を精進料理でいただく会~」は、地域の方と共同で自元寺を会場として開催しています。お酒を飲みながら地域をどうしていきたいかを話し合い、地元の野菜を使った精進料理を食べていただくことで地域活性化に繋がると思い各行事を実施してきました。
 実は大本山永平寺での修行を終え、まもなくして師匠が遷化しました。若輩者の私に対して温かい言葉や、励ましの言葉をかけてくださったことは忘れません。綺麗ごとではなくお寺、地域の素晴らしさを伝え守り、恩返しをしたいと思っております。

不定期で開催される「寺カフェ」というのはどういったものでしょうか

山崎師 気軽に参加できる一日限定のカフェです。これまでの開催時には、緩和ケア認定看護師のお二人と、ファイナンシャルプランナーに「死から生きることを考え語ろう」「余命半年どう生きる」「相続の時どうすればいい」等、様々なご講義をしていただきました。
 興味深かったことは、病気や事故の際に意思を伝えられない場合があります。もしかしたら延命治療を望んでいないこともあるかもしれない。受けたい治療があるかもしれない。ACPカード、医師が作った「もしバナカード」というものがあり、「自分自身が臨終前に何を大事にしたいのか」といった様々な項目が書かれたカードを選択し最終的には3枚を選ぶ。そうすると自分が改めてどう生きて、死にたいかが明確に考えやすくなります。また、このカードを持ち医療従事者に伝えることで、望んだ医療を進めてもらうことができます。
 我々も死について考える機会は非常に多いですが、臨終に至るまでの経緯について僧侶は実際見えていない部分が多くあるのではないでしょうか。実際に専門医療に携わる方のお話をお聞きすることは僧侶としても勉強になります。また、お寺で死について考えることは参加者にとっても大きな意味があると思っています。

―全体を通して、振り幅が広く質の高い活動に感じます。当初、明確なビジョンはあったのでしょうか。

山崎師 常にお寺を通して地域に何かを還元したい意思はありましたが、はっきりとした輪郭をなしてはいませんでした。ただ、先ほどお話したように、坐禅会の交流がヨーガ教室の開催に繋がり、緩和ケア認定看護師さんとの繋がりから、講義や互いに語り合う場が自然と作られています。私の場合は繋がりの中で必要性を感じ実施に至る流れが多いです。また、活動1つ1つに対して、多方面に耳を傾け、丁寧にプロセスを踏むことが、活動の質に大きく関わると思っています。

―お話をうかがい、強いリーダーシップを感じます。寺活をより良いものにするには、リーダーシップは必要だと思いますか。

山崎師 何をもってリーダーシップというのかはそれぞれだとは思いますが、私自身は先頭に立つタイプの人間だとは思っていません。自元寺に戻り間もなくのことでしたが、行事について話し合いがなされた後、ある総代さんに呼ばれ「もっと頼ってほしい」と言われたことがあります。忘れられない言葉となり、心が楽になりました。
 お寺の住職として責任を持つことは当然です。ただ責任をもって仲間にお任せをする。お寺の行事に携わる一人一人にそれぞれの責任をもって臨んでもらう。行事を素晴らしいものにするには、仲間と共に作り上げる意識はとても大切なのではないでしょうか。

―今後寺活を考えている方へ、アドバイスをお願いします。

山崎師 様々な活動が各お寺でなされており、参考にすることは大いに良いと思います。ただ、お寺からにじみ出るものが必ずあるので、しっかりと必要なことは何なのかを考え、そこから始めることが大切だと思います。例えば、お檀家さまが少なかったら団結が強く、檀務が少なければお寺を解放できる時間が増えます。お寺を盛り上げたい気持ちがあるのであれば近くの人間に相談すれば、真摯に向き合ってくれる方や力になってくれる方は必ずいらっしゃいます。そんな方々と協力していくことは、とても大事です。

(聞き手・文構成/全国曹洞宗青年会庶務 高田大航)

引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和5年1月号掲載
全国曹洞宗青年会「テラカツ!〜寺院活性化事例紹介〜」
※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。

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