第18期会長 所信表明

2009.10.26

全国曹洞宗青年会 第 18期会長 久間泰弘

全国曹洞宗青年会が「大衆教化の接点を求めて」を標榜して発足し、新時代の胎動が響き渡ってから34年、今また、私たちは大きな時代の転換期に差し 掛かっています。
教化の接点を求むべき大衆・世間は、現代世相における政治の混乱、未曾有の経済危機に加え、教育倫理や食物の産地偽装に代表されるコンプライアンスの崩 壊、また頻発する災害など多くの困難事に喘いでいます。さらに、我が国では毎年3万人以上の人が自死を選択し、引きこもりの数も100万人以上といわれ、 何百万もの人たちがこの深い苦悩の淵に嵌り込んでいます。 このような閉塞感と孤独感に蔽われた現代社会において、益々仏教に期待されることが多いにも拘らず、その教えは果たして大衆・世間に対し十分に伝わってい るでしょうか。
私たちは、社会的要請を把握しきれないままに教えを発信し続けている一面があるのではないか、とあらためて自らを振り返る必要があるように思えます。 いま、私たちには何が出来ているでしょう。
—こちらの都合で語られる”苦悩”や”寄り添う”といった言葉だけの慈悲に一体何の意味があるのでしょうか。私たちが対峙する苦悩とは、観念的ではなく、 常に具体的・現実的に認識される事象であるはずです。 いま、私たちは何をなすべきなのでしょう。—いつの時代でもそうですが、私たちに求められる事は、「言う」ことよりも、「行動」していくことでしょ う。私たちはそこで待つのではなく、自らの具体的アプローチを通して人々の苦悩に対峙すべきではないでしょうか。
慈悲とはその「行動」によってのみ成熟深 化されていくものだと考えます。 その行動と対峙を通して”いま何をなすべきか”をあらためて認識することが重要に思えます。この認識過程においては、深く厳しい自己省察を伴うこと は論を俟たないでしょう。宗教者・僧侶の個我とは、自己省察という自身の内面にある苦悩や問題意識との厳しい対峙を経て体得していくものであり、この過程 を無視する者は、ともすれば他者の持つ苦悩や問題意識をも封殺してしまう。結果、そういった姿勢には、社会に存在する苦悩と連結しうる力を持ち得ないので す。 私は、この自己省察と慈悲行への具体的行動こそが、世間苦と私たちを密接に連結し、混迷する現代社会における布教教化への方途や、私たちの立脚点を明確に する道だと信じ、以下を会務執行の目標に掲げ、鋭意実践して参ります。

<スローガン>

第18期全曹青においては、『いのちの声に耳を澄ます』というスローガンを掲げ、「大衆教化の接点を求めて」という全曹青発足の理念・経緯を振り返 り、”苦悩する人々の伴走者となる”という強固な目的意識を組織全体で共有し、全国会員諸師とともに、その道を一歩一歩着実に進んで参りたいと考えていま す。

<基幹事業について>

基幹事業については、当該委員会を組織し「電話相談事業」をご提案申し上げます。当事業は、苦悩する人々への具体的方策の提示と、私たちの自己省察 を促すことに有効な事業と位置付けます。 青少年や高齢者をはじめとした様々な人々の苦悩に”耳を澄ます”という行為は、社会的要請へのコミットに他なりません。また、それは同時に、「自らの気づ き」を深めていく行為です。その行動過程は、私たちの日常の檀務や災害ボランティア活動においても十分に反映され、各人の意識・資質向上にも必ず繋がって いくものであると信じます。 私たちに要請されていることは少なくありません。その中で出来る事には限りがあるかも知れませんが、いま正に何かを行動に移す時が来ているのではないで しょうか。 使命感と責任感の伴った、”一歩共に歩こうとする意思と、一歩共に進もうとする行動力”によって、慈悲の反射神経を十二分に発揮し、全国会員諸師とともに 当事業に取り組んで参ります。

<委員会の再編>

今期は、第17期よりの組織改編を受けて、従来の6委員会から4委員会(総合企画、広報、法式、基幹事業)への再編成に着手致しました。 具体的には、これまで同じ情報を扱う事が多かった広報委員会とIT委員会を統合し、全曹青の情報伝達媒体である『そうせい』と『般若』を一括運営管理して より立体的な広報活動を目指します。同時に、「IT」を「ICT(Information and Communication Technology)」に名称変更した部門を事務局庶務に配置し、組織内インフラの整備に努めて参ります。 また、総務委員会を総合企画委員会と名称変更し、職務も事務局補佐中心から、委員会独自で、頒布や研修会開催を企画運営する事も視野に入れ、その活動内容 に幅を持たせることと致しました。 法式委員会については、従来通り、全国会員諸師のニーズに合った事業展開を推進して参ります。 これらの委員会再編や会務の再検討は、単に予算や会務の縮小を目的としたものではなく、各委員会どうしの事業内容の重複を回避し、職務効率化と予算の集中 を図って、より有意義な全曹青活動の実現を狙いとするところであります。

<災害対策について>

災害対策に関しては、従来のボランティア委員会を、理事・執行部を中心とした特別委員会へ変更し、これまでの活動と体制を再検証して、委員会主体に よる災害支援活動から、全国会員諸師との協働可能な組織づくりを提案整備して参ります。

<連絡協議会の組織強化と非加盟曹青会との交流>

全国組織ネットワークを活かして、全曹青の本分である連絡協議会という役割を果たし、各曹青会をはじめ、各地域の一人ひとりの活動紹介は勿論のこ と、その意識を繋げることにも重点を置き、より連携強固な組織づくりの実現を目指して参ります。また、非加盟曹青会とは、人的繋がりや全曹青から提供し得 るコンテンツを通して、その意識や活動の交流を図って参りたいと考えます。

<私たちの目指すべき姿勢とは>

道元禅師は、『正法眼蔵自証三昧』巻において、「おほよそ学仏祖道は、一法一儀を参学するより、すなはち為他の志気を衝天せしむるなり。しかあるに よりて、自他を脱落するなり。さらに自己を参徹すれば、さきより参徹他己なり。よく他己を参徹すれば、参徹自己なり」とお示しです。 禅師はここで、私たちの目指すべき姿勢について、些かも違う事なく云い当てておられます。私たちはこの御教えを文言の内に留め置いてはならないと考えま す。 現代世相と宗門の現状を十分に認識把握し、”自己に徹底すれば、他者にも徹底することになり、同時に他者に徹底すれば、自己にも徹底することになる”とい う事についてお互いに真剣に考え、切磋琢磨し、勇気を持って積極的に活動していくことが私たちには肝要といえましょう。 最後に、私たち第18期執行部一同は、全曹青・宗門における先達の功績や情熱を忘れることなく、不惜身命・粉骨砕身の決意にて、この二年間の会務に 邁進する所存でございます。宗門御寺院様、青年会会員諸師には全国曹洞宗青年会への更なるご理解ご協力をお願い申し上げ、私よりの所信と致します。

合掌

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