WEB版『テラカツ!』寺院活性化事例紹介(第1回)

2024.01.23

『テラカツ!』は曹洞宗宗務庁より毎月発行されている『曹洞宗報』にて連載されていました。全国曹洞宗青年会の出向者が聞き手となり、全国各地で活発に活動されている青年僧侶の方々を紹介しています。寺院運営も厳しくなってきていると言われている昨今ですが、各地の事例を参考にして、ご自坊をもり立ててみませんか?

第1回 青森県佐井村・長福寺

 現在、過疎化による檀信徒数の減少に苦しむお寺が増え、寺院運営も難しさを増しております。「いかにしてお寺を活性化させるか」ということに苦心する僧侶も多いのではないでしょうか。
 この連載では、お寺を活性化させるための活動「寺活」について、積極的に取り組んでいる寺院を全国曹洞宗青年会が紹介してまいります。

〈プロフィール〉
長福寺副住職 吉田眞永師
1992年生まれ。30歳。東北福祉大学総合福祉学部卒業後、大本山永平寺で修行。その後は仙台でイベント会社に勤務しながら長福寺の法務を務めていたが2019年に退社、長福寺に戻る。

―寺活に取り組もうと思ったきっかけを教えてください。

吉田師 27歳のときに勤めていたイベント会社を辞めて長福寺に戻りました。ちょうどその年、特派布教師の巡回が長福寺に来ました。「この機会に何かお寺で催し物をしたいな」と考えて、大広間で大本山永平寺の修行生活を紹介するコーナーを設けたのが寺活の取り組みのきっかけです。服装紹介、柏布団の展示、修行僧の生活場所の再現、食事の再現、法戦式使用法具展示、各儀式の紹介、それに法服の試着体験も行いました。80人の参加があったのですが、ふだんのお坊さんのイメージとは違う面を見ることができて楽しいといった意見もあり、とても好評でした。

―お寺に戻ってすぐにそのような取り組みを始めたということに、高い意識を感じます。どのような想いがあったのでしょうか。

吉田師 「今後、お寺はどうなるのだろう」という強い危機感がありました。勤めていたとき、2ヵ月に一度は長福寺に戻っていたのですが、お寺の年中行事にはおじいちゃんおばあちゃん世代しかいらっしゃいませんし、時々参加している子どもも窮屈そうな顔をしています。また、周りの同世代の人たちは「お寺にまったく興味ない」とか「お寺にそもそも行ったことがない」という人が大半で、お寺の印象といえば、「お葬式や先祖供養のイメージしかない」がほとんどという状況でしたので、このイメージを少しでも変えていきたいな、と考えていました。

―「危機感」について、その背景には「過疎」の問題もあるのでしょうか。

吉田師 無視できない問題です。20年前、私が小学生の頃は佐井村の人口は確か3,500人くらいでした。それが現在は1,800人を切るほどに落ち込んでいます。佐井村は最寄りの駅まで車で1時間半、県庁所在地の青森市まで3時間半、最寄りの空港や新幹線の駅までも3時間という不便な場所です。働き口もなく、今後人口が増える見込みはありません。これからお檀家さんが村外に出ていくことは大いにあることだと思います。そのときに長福寺への思い入れが大してなければ、簡単に離檀されてしまうのではないか。そんな不安を感じていました。

―その後は、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

吉田師 最初の寺活の際、皆さま興味深そうに展示物をじっくり拝観してくださり、その姿を見て「興味はあったのだろうけど知る機会がなかったのだろうな。知ることができ、触れることができる機会を増やしていきたい」と思いました。
 2018年、その年の成道会に合わせて寺院開放イベント「寺遊三昧」を開催しました。「お寺はお葬式で行くところだ」「お寺は不幸な場所だ」というイメージを変えたかった私は、お寺を知るきっかけとして「楽しい」という入り口があっても良いのではないかと考えました。法話、坐禅、写経、御朱印帳作り、精進カレー、鳴らし物仏具、「ほとけさま塗り絵」といった体験の他に、「懐かしのおもちゃ体験」と称してミニ四駆コーナーを設けました。これはミニ四駆が走れるコースを大広間に設け、実際に走らせて遊ぶことができる、というものです。

―ミニ四駆コーナーの評判が良く、これをきっかけに様々なご縁を得ることになったのですよね。

吉田師 このときの様子をSNSに投稿したところ、ミニ四駆の制作・販売を手掛けるタミヤ社の社員が見てくださったようで、タミヤの公式アカウントの広報の方から「寺四駆」という名前をいただきました。
 その後、お正月やお盆、お彼岸といったお参りが多い時期には大広間を開放し、「ミニ寺遊三昧」としてお参りに来られた親子の遊び場や各種体験に臨める場として活用しました。また、せっかくいただいた「寺四駆」という名前を活かし、子どもの日常の遊び場として活用したいと考え、「放参日(ミニ四駆→よんく→ 四九→四九日が由来です)」 と称して土日祝日の午後に開放するようになりました。

―寺活を始めてからの檀信徒・地域の方の反応はいかがでしょうか。

吉田師 親子をはじめ遠方のお檀家さんや観光でいらした方から大変好評です。「これは子どもが喜びますね」と言っていただけたときは特に嬉しいです。
 法事やお葬式の際には「お焼香まで頑張ったらどうぞ」「開式まで息抜きにどうぞ」と大広間をご案内しています。大広間を案内してしばらくすると笑顔になり、開式前の法要解説を真剣に聞いてくれます。夏休みには近所の小学生が毎日のように自転車に乗って遊びにやってきました。近所の子が遊びに来る光景はずっと夢見ていたのでそのときは大変嬉しかったです。
 また、始めてから3ヵ月経った頃から隣町の方に法事のときの「寺四駆」の開催を手伝っていただいています。もともとミニ四駆に詳しかった方で、お寺の掃除なども手伝ってくださるようになりました。その方はお寺のお手伝いをすることで、「お寺の生活って大変なんですね」と言ってくださり、ご自分の甥っ子姪っ子もお寺に連れて来るようになりました。それまでお寺にはあまり興味がなかったのに、ご自分の菩提寺にもお参りするようになったとのことで、まさに寺活の本来の目標である「お寺に人を呼ぶこと」に繋がっています。

―寺活に取り組んでいて、苦労する点はありますでしょうか。

吉田師 「お寺を私物化するな」というお言葉を法要後の会食の席で言われたときや、「仏教と関係なくない?」と言われたときが辛かったです。しかし、師匠や家族がこれからのお寺のことを考え、応援してくれているので助かっています。

―寺活をこれから始めたいと思う僧侶へ、ご助言があればお願いします。

吉田師 お寺に熱心なお檀家さんの多くは、子どもの頃お寺で遊んだという記憶があるそうです。私自身は、子どものうちからお寺に繋がりがあることは、お寺離れを防ぐことに繋がると考えています。また、「子どもの頃の思い出をきっかけに将来足を運んでくれたら嬉しい」という気持ちで続けています。
 その上で言いますと、地域が抱えている問題を取り入れたり、お檀家さんがどういう家族構成でお参りされているかを考え、そこに自分の得意なことを苦にならない程度に絡めてみてはどうでしょうか。基本には「楽しい」があった方が自分もお檀家さんにとっても有意義なものとなると思います。

(聞き手・文構成/全国曹洞宗青年会 副会長 田ノ口太悟)

引用:曹洞宗宗務庁刊『曹洞宗報』令和4年5月号掲載
全国曹洞宗青年会「テラカツ!〜寺院活性化事例紹介〜」
※年齢・役職等は『曹洞宗報』掲載当時のものです。

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